BOSO Circular Economy

房総サーキュラーエコノミー推進協議会

いすみ市みねやの里

特集 “CEプロフェッショナルズ”第2回

農事組合法人みねやの里 代表理事 矢澤喜久雄さん

いすみ市神置
マップ&リストN0.014
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取材:協議会事務局・杉田基博

第2回は、いすみ市神置を拠点に、循環型の有機無農薬栽培による米を、学校給食に提供する活動を通して、いすみ市とともに地産地消の循環社会づくりに貢献されている、農事組合法人みねやの里の代表理事、矢澤喜久雄さんを訪ねました。

学校給食向け有機無農薬米を栽培しはじめた目的、経緯について聞きました。

農事組合法人みねやの里の前身、峰谷営農組合は、集落の22戸が集まって、2004年に設立された集落営農組織。「峰谷」は、集落の古い字名とのこと。

同組合は、1世帯ごとに農機具を所有しながら、狭い農地で農業を続けることに限界を感じていた集落の農家によって、農地や農機具を共有し、効率的に営農することを目的として設立されました。

そして、その取り組みが評価され、2010年に農林水産大臣賞を受賞されました。

さらに、集落の住民だけでは、農地と農業を支え続けることが難しくなると考え、2016年に農事組合法人みねやの里を設立し、集落以外から人を雇用する体制を整えました。

矢澤さんは、高等学校の英語教員を退職後、峰谷営農組合の役員を歴任され、現在は、農事組合法人みねやの里の代表理事を務めています。

峰谷営農組合当時から、人と環境に優しい減農薬栽培による米づくりに取り組んでいました。

2012年、いすみ市が設置した「自然と共生する里づくり連絡協議会・環境保全型農業連絡部会(通称 農業部会)」に参加し、絶滅したコウノトリを復活させた兵庫県豊岡市の事例研究をきっかけに、いすみ地域にふさわしい農業のあり方について、より深く考えるようになったそうです。

豊岡市から学ぶべきことは、有機無農薬の米づくり、と考えた矢澤さんたち峰谷営農組合は、2013年から実践しはじめましたが、当初、米は雑草に負け、十分に育たなかったそうです。

しかし、ここから不屈の精神で、成功へとつながる取り組みがスタートしました。

2014年、豊岡市でも農業指導を担当されたNPO法人民間稲作研究所の設立者、故・稲葉光國さんを、いすみ市が招聘し、指導を仰いだところ、見事に米の成長を阻害するような大きな雑草を抑制することに成功。

しかも、なんと、呼んでもいないコウノトリが豊岡から飛んで来た、という、日本昔話の理想郷のような現実が、いすみ市では展開されているそうです。

いすみ市みねやの里

そして、2014年秋、農業部会(3農家)が収穫した4トンの有機無農薬米を、どのような人たちに食べてもらうのが最善かと考え、生産者が出した答えが、学校給食でした。

いすみ市は、学校給食に有機無農薬米を採用することで、未来を担う子どもたちの健康を第一に考え、同時に、地域を支え続けてきた農家に対して、有機無農薬米を持続可能な料金で買い取ることで助ける、といった循環社会を目指しています。

さらに市外から、有機栽培に挑戦する移住者がやってくる、といった好循環が連続しているそうです。

4トンの米は、2015年5月に、市内13の小中学校の1カ月分の学校給食として提供を開始。その後、栽培農家・農地が拡大し、2017年には、学校給食における有機無農薬米100%提供を達成。

このような全国唯一で、イノベイティブな成功が評価され、いすみ市環境保全型農業連絡部会は、農林水産大臣賞を受賞されました。

現在、農事組合法人みねやの里では、JAS認定の肥料を使い、有機無農薬栽培による米を、4.4ヘクタールで約18トン(1反当たり約7俵)。地元産牛糞を使った、ちばエコ認定米(除草剤を1回だけ使用)を、4.6ヘクタールで約25トン(1反当たり約9俵)収穫しているそうです。

取材した私も、2009年から1反(約千平米)の田んぼで、有機無農薬米を栽培し続けていますが、みねやの里の規模と収量は、まさに驚異的です。みねやの里は、科学的に有効な方法で栽培すれば、規模拡大も可能なことを、実証されています。

いすみ市みねやの里

これまで大変だったこと、嬉しかったこと等について聞きました。

「有機無農薬米で大変なことと言えば、なんと言っても、雑草が発生してしまった場合の除草作業です。人手がかかる。時間もかかります。草を生やさないためにも毎日の水の管理がとても重要です」と矢澤さんは語ります。

「学校給食について印象に残っているのは、給食時に小学校を訪ねた際、1人の生徒から、『おじさん!僕はね、おかずは残しちゃうけど、ご飯は美味しいから残さず全部食べてるよ!』と言われたことです」

子どもなりに精一杯、感謝の気持ちを表現したいという気持ちが伝わり、感激し、ありがたい気持ちで一杯の矢澤さんでしたが、「おかずもちゃんと食べてね!」と、ひと言。

いすみ市の学校給食に採用されている野菜についても、年々、有機無農薬栽培の比率が高まっているそうです。

いすみ市みねやの里

写真提供:いすみ市農林課

今後の課題、将来の展望等について聞きました。

農業と環境や社会とのつながり、有機無農薬栽培の重要性について、矢澤さんは語ります。

「退職後、雑誌類を含めれば千冊くらいの本を読みました。そのうち98%くらいは農業、環境、地球、生物に関係する本。
これは、本当にいい経験になりました。農業を通じて、そこから派生することを勉強することができて、本当に良かったです。
有機無農薬栽培は、様々なSDGs課題が凝縮されたような世界です。
化学肥料や農薬を使い続けると、土壌中の微生物が死滅して土地が砂漠化し、地球温暖化が加速してしまいます。土壌中には空中よりも多くの炭素が含まれているため、炭素を有効活用する有機農法は、地球温暖化緩和に貢献する、と言われています」

いすみ市みねやの里
いすみ市みねやの里

2025年3月、田植え前の田んぼ。黒々と肥沃な土は、植物の生育に適した、土壌粒子が小粒の集合体となった団粒状になっている様子が見える

現在、国民の最大関心事の一つ、令和の米騒動についても、コメントをいただきました。
「令和の米騒動については、農家が儲けている訳ではありません。
この数十年で、肥料や燃料は2倍になったのに、米の価格は半分まで下がりました。そもそも米の値段は、安すぎです。
米不足の原因について、猛暑による不作とインバウンド増加で需要が供給を上回った、と言われていますが、農林水産省が都道府県に提示した年間需要の見通しが甘かった、と言わざるを得ません。今後は、農家への欧米並みの所得補償や、消費者が安心して食糧を入手できる仕組み、食糧自給率の向上等を推進すべきではないかと思います」

取材した私も、米騒動の直前まで、都内で5kg当たり1,500円で販売されていた、というニュースに衝撃を受けた1人です。国内における一般的な小規模農家が廃業に追い込まれて当然の価格です。
人手不足が深刻化するなか、多くの農家が廃業に追い込まれれば、国の安全保障は成り立ちません。いくら高性能な兵器を数多く配備しても、国民の食料を確保できなければ、国は存続できない、という思いに至ります。

営農組合設立時と、有機無農薬米の学校給食への提供で、2度も農林水産大臣賞受賞に関わった矢澤さんは、農業と地域社会に係る持続可能な取り組みについて語ります。

「農業従事者の雇用を含め、生まれ育った集落を持続可能にしたい、という思いが基本にあります。
おかげさまで私たちの活動が評価され、全国から、また海外からも、行政関係者をはじめ多くの方々が、私たちの取り組みを視察に来ています。昨年度は、1年間に50件以上、視察に来られました。
外部からの評価について地元関係者は、日頃から話をすることはありませんが、皆が誇りに感じている、と思います。

今後は、全国学校給食無償化とあわせて、全国すべての学校で、有機無農薬米を採用してほしいです。全国どこでも子どもたちが健康で、大事にされる教育を普及してほしい。そのために、今後も要請があれば、できる限り協力していきたいと思います」

矢澤さんへの取材を通して、持続可能な社会の実現には、農と食の循環を基本として、雇用を含めた人や情報、資金といった社会的な循環、さらに、人や動植物の健康に欠かせない土壌等の環境の循環について、一体的に取り組む必要があることを学びました。
まさに、SDGs課題が改善された先にある、循環経済・社会ですが、考えてみれば、かつて人と自然が共生していた時代では、当たり前にあった、現代でも実現可能な世界と思います。

農的生活は、多くの人が憧れる、とても魅力溢れる生き方ではないでしょうか。
農業を通して、自然・経済・社会が循環することで持続可能にする、みねやの里といすみ市のような取り組みを、より多くの人に知っていただき、自ら実践する人と地域が増えるよう、協議会として、情報収集と発信を続けていきます。

▶︎農事組合法人みねやの里の詳細は、マップ&リスト No,014 でご覧ください

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